1.まあ聞いてくれ、いつのハビタスか、女御、更衣、あまた蔓延りやがるなかで、 | |
まあ聞いてくれ、いつの御代(ハビタス)か、女御、更衣、あまた蔓延りやがるなかで、やんごとなききわには居やがらないが、すぐれてときめきやがるのがいた。われ我こそはという女御どものなかで、こいつはめだつ野郎だと貶め妬まれやがりもする。同じかそれよかゲラウな更衣どもとなればまして、と云う風で、朝夕のハビタス世話をしてもらうたびに、心みだれ恨みを押い積もってくと為りやがって来るとサア大変で、だんだんそいつはキトクな風になり、引き篭もりがちになりやがったとなれば、なんだか俺のハビタスはますますこわばりふるえ雄叫びをあげ、あーだめだめあーたいせつ、超カワイイ、ホントカワイイな此れ、と思う心が溢れ出し、人の言うところも分けが分かん無いという風で、のちの奴らの為めにもなりやがらない程のつよさでこいつを抱きしめて毎夜モロ可愛がってしまった。 |
2.上達部、殿上人の野郎どもも目をそばだてやがりながら | |
上達部、殿上人の野郎どもも目をそばだてやがりながら もろこしでの例えもございまして、こういう事が国の乱れの元となることもございますし、これはあしかりでゴザいますこと とか何とか、天の下的にもあじきない風になってきて、奴らの持て悩み腐になってきた。もろこしの楊貴妃の例えを出してきやがって、まあはしたない事はこの上は無いが、俺のハビタスだけを頼りにしてこいつは健気にもあいつらにまじり踏ん張っていやがる。カワイイ。 こいつの親父は大納言だったんだが今は墓の下、母親のほうは北の方で、いにしえからのおなら臭い手法をよく心得てる方で、両親が居て世にしられる人にももひけをとらない育て方はしてて、色々やってやがってたようではあるが、べつに凄い後見が居るわけでもなし、何か事が起こっても、 よりどころもな心細い気持ちでいやがる。 |
3.魂の数珠にみちびかれてか、きよらかなたまのような王子があいつからうまれやがった。 | |
そんな中、魂の数珠にみちびかれてか、きよらかなたまのような王子があいつからうまれやがった。 もう楽しみで楽しみで、まだかまだかー、なんて言っちゃってるうちに、生まれたらすぐにもってこさして、見たらホントカワイイんだこれが。 一人目はもう出来ててこれは右大臣の娘の女御から生まれた子だったんだが、いわゆるこの三千世界天の下の皇となるべき繭ということで、それはそれでかしづきやがるんだが、二番目のこのガキは何かホント、ただカワイイっつーか、なんつーか癒される、凄いめづらかで、あいつの子だからか俺のものだ感が強くなってガチでかしづく。 |
4.はじめからあいつはそんなに恒例ハビタス番てわけじゃなかった | |
はじめからあいつはそんなに恒例ハビタス当番てわけじゃなかった、見た目はゴージャスなところもある、俺の夜のハビタスが留まることを知らないというので、毎度毎度ハビタスの世話をさせたり、あそびがあれば呼んだり、ほとんど入り浸り状態になって、いつの日か大殿籠もりすぎちゃったなんてこともあったり、ずっと居て、ずっと側において、なんてことでちょっと軽い相手に見られやがることもあったかもしれないが、ガキが生まれてきて考えも変わったから *この子を看てくれないのは、あのガキのせいなのかね なんて一人目のほうの母親が思いやがったりもする。先にハビタス縁があったのはこの大女御となわけで、当然俺は大事に思ってるし、皇女も何人かいるしで、俺の行いをいさめやがることにでもなれば、こいつのいうことはやっぱり煩わしく心苦しい感じにはなる。 |
5.儚き身ひとつで、あいつはもの思いやがっていた。つぼねは桐壺だ | |
俺のおかげだけたよりにして、まわりは咎をもとめ貶めやがろうという奴が多く居る中、か弱い、儚き身ひとつで、あいつはいつももの思いにふけっていやがっていた。 つぼねの場所は桐壺だ。 いろんな奴らをすぎ分けて、たびたびのハビタス渡りに、奴らの心づくしがありやがるのも、ことわりとみたらそうなのかもしれない。俺の夜のハビタスがあいつでいっぱいになった日には打橋、渡殿にやばいことをしかけやがるやつもいて、送り迎えする奴の裾がたえがたいことになって台無しなんてこともあった。 馬道の戸をさしこんで、こなたかなた奴らが心あわせして、あいつが、はしたないことになって煩わされるなんて事も多くなった。事にふれりゃあ、かず知らず苦しい事ばかりが思い出される、俺が思い詫びるところで、あいつの事を気にかけて元々後涼殿にいやがった更衣のつぼねを、他に移させてそこを上つぼねにしてやったりするが、そうしたところであいつへの恨みつらみがどこかへ移るわけでもなかった。 |
6.このガキが三つになった年のはかまぎの事だが、 | |
このガキが三つになった年のはかまぎの事だが、一の宮のものに見劣りしないようなのを蔵司納殿の物をつくして、いみじくしあげやがった。 それにつけても、世の誹りも多いわけだが、このガキの容貌たるやありがたくめずらしいもので、妬みきれない。ものが良く看えてるやつなどあれば *かかるひとも世においでなさるものかは と、あさましいまでに目をおどろかせやがる。 。 |
7.その年の夏、御息所がはかない心地からわずらって | |
その年の夏、御息所がはかない心地からわずらって、暇をくれというから許さず、ねんごろ常でキトクな体だから、特にその事は気にも留めないでまあ、もうちょいやってみろよとか云ってから4、5日も経つとどんどん弱っていき、泣く泣く今度は母親が来て暇をくれという。かかる折にもあるまじき恥を偲ぶようなことがあるかもしれない、三歳のガキのほうはこのまま留めてあいつだけ出ていきやがらせた。ここまで言われたら、あいつを出さない分けにもいかないし、見送りもできないおぼつかなさは言い様もないことだった。あいつのにおいやか美しいすがたが、面痩せて、気にかかることはとても多いらしく、でもその事をあいつは言いやがることはない。あるか無いかと云った風にヤってるのを見るにつけ、何処から来てそして何処へ向かえばいいのか。泣きながら色々の契りのことを言っては見るが、もう俺の言葉もよく聞きやがらない、 まなざしはたゆげで、ますますナヨナヨとした、気色失せて臥していていったいどういうことなんだか分からない。 |
8.手車の許可は出したが、まだハビタス番をさせる気は | |
手車の許可は出したが、まだハビタス番をさせる気は俺は満々で、あいつを外へやるなんてのはもってのほかだった *限りあるこのいろいろのみちを、ひとすじで乗り越えて行こうっていったのを、忘れて、このままいっちまうなんてことはないよな? と云ってはみるが、女の方もいみじくと看て かぎりとて、わかるるみちの、かなしきに、いかまほしきは、いのちなりけり です。ほんとうに、こんな事なら、と息も絶え絶え、まだ話したいことはありそうだが、くるしげたゆげな表情をみるにつれ、ならいっそ最後ならこれを見届けるのもとおもったのだが、 今日からいのりなど、さるべき方々が承っておりまして、それが今夜で なんて急かす野郎もあって、わりない心地がしたが、そのままいきやがらせた。 |
9.むねはふさがり、眠れぬ夜をすごした。 | |
むねはふさがり、眠れぬ夜をすごした。いぶせさを吐露したところで、遣いのやつが変な頃にきて 夜過ぎにお亡くなりになりました と泣いて言われ、何も知らず、ただ部屋にこもった。 あいつのガキにもなにかしてやりたいが、こんなときにそばに置く人もおるまいとて、まかでさすことにした。何が起こったのかなんてよく分かっちゃいない、どいつもこいつも泣きくれていて、俺もただ泣いてて、あやしいもんだとガキは見ている。別れってのは、たいてい悲しいものだが、あいつとの別れのあわれさとなると、もう、云う言葉もない。 |