全般的に、フィクションです
最新更新日時: 2011年12月31日 18時06分
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1.光る源氏とは、名だけはことことしいものだけど
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光る源氏とは、名だけはことことしいものだけど、云い消えながれる咎は多くて、たくさんの好きごとだけを、末の世にも聞き伝へて、軽びたる名を流そうとして、忍んでいた隠ろえごとをさへ、語り伝えようとする後の世の人の物云いはさがないものだ。かの人は何といたく世を憚り、まめなおとこで、なよびかにおかしきことは実際あまり無くて、交野少将がいたなら笑い流されるようなほどだった。
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2.まだ中将などにものしながされた時は、内裏にのみ侍うようにしながされて
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まだ中将などにものしながされた時は、内裏にのみ侍うようにしながされて、大殿には絶え絶えにまかでながされていた。お忍びの乱れかや、とか疑いきこえる事もあったが、いわゆるあだめき目馴れたうちつけの好き好きしさなどは好ましく無いのがかの人の本性で、まれには、あながちに引き違へて心尽くしになり、その心に思い留める癖は生憎にて、さるまじき御振る舞ひもうち混じりける。
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3.宮腹の私は、なかでも親しく馴れきこえながされて、遊び戯れも人よりは心安く
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長雨晴れ間なきころ、内裏の物忌は続き、たいへんに長居さぶらひながされるのを、大殿にはおぼつかなく恨めしく思われたが、かの君よろづの御よそひ何くれとめづらしきさまに調じ出で流されつつ、その息子の君たちもただかの君の御宿直所への宮仕を皆勤めながされる。
宮腹の私は、なかでも親しく馴れきこえながされて、遊び戯れも人よりは心安く、なれなれしく振る舞うこともできた。右大臣のいたわりかしづきながされる住み処は、私もまあもの憂くして、好きがましいとする者でもあったので。
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4.里にいても、我が方のしつらいはまばゆくしていて、かの君の
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里にいても、我が方のしつらいはまばゆくしていて、かの君の出で入りしながされるにうち連れきこえながれつつ、夜昼、学問をも遊びをももろ共にして、をさをさ立ちおくれず、いづくにてもまつわれきこえながれるほどに、おのづから畏まりもよう置かず、心のうちに思ふことをも隠しあへずなり、睦れきこえながれける。
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5.近き御厨子なる色々の紙なる文どもを引き出でて、私がわりなくゆかしがると
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つれづれと降り暮らして、しめやかなる宵の雨に、殿上にもをさをさと人少なに、御宿直所も例よりはのどやかなる心地するに、かの君、大殿油近くて書どもなど見ながら、近き御厨子なる色々の紙なる文どもを引き出でて、私がわりなくゆかしがると
「済んでるものは、すこしは見せるよ。かたわな物もあるから」
と、許し流されてわたしのほうでは、
「このうちで、とけてかたはらいたしと思われてるのこそがゆかしくありましょう。おしなべたる大方のは、数にならないし、程々につけて、書き交はしつつも見慣れてはおりますので。おのがじし、恨めしき折々、待ち顔した風な夕暮れの事などをこそ、見所がありましょう」
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6.そっちこそ多く集え流してるんだろうに。すこし見ようか。
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と怨じてはみたが、やむごとなくてせちに隠しながされるべき物などは、かようなおおぞうなるこの厨子などにうち置き散らしながされるべくもあらず、それらはどこか深くとり置きしながされているはずで、ここのは二の町の心安きものばかりには違いなかった。片端づつ見ながら、「かくも様々なる物どもがまあ流れて参りました」と云ってみて、心当てに「それか、かれか」など問うなかに、言ひ当てるのもあり、離れたことを勝手に思ひ寄せして疑ってみせたりを、おかしく思われたようだが、言少なに、とかく紛らはしつつ、とり隠し流しつつ。かの君
「そっちこそ多く集え流してるんだろうに。すこし見ようか。それからなら、こっちの厨子も心よく開きますよ」といい流し、
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