21.ただあいつの形見として、かかる用もあればと残していやがっていた装束一領、髪上げの調度めく物 | |
月は入り方、空清くすみ渡れるに、風は涼しくなり草むらの虫の声ごえ催し顔なり、立ち離にくきくき草のもとかと 命婦が 鈴虫の声の限りを尽くしても 長き夜飽かず降る涙かな とやれば 「いとどしく虫のねしげき浅茅生に 露置き添ふる雲の上人 かごとも聞こえつべくなむ」 と言はせやがる。おかしき贈り物などあるやがる折でもなし、ただあいつの形見として、かかる用もあればと残していやがっていた装束一領、髪上げの調度めく物を添へやがる。 |
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