リテラシースタディーズプラットフォーム v0.9
最新更新日時: 2009年12月22日 10時53分
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2 リテラシーの定義 |
いかなるコミュニケーションにも、その分野(Discipline)特有の通時的・共時的な知識・技能・認識があり、それがリテラシーである。リテラシーは内部と外部の相互作用において顕在化してくる。リテラシーはその内部にとって往々にして暗黙知であり、インサイダーはそれに基づいた認知地図や認知の優先順位を意識的・無意識的に身につけている。 |
3 リテラシー・スタディーズの意義 |
リテラシー・スタディーズ(以下LSと略)は外部の他者に向けてリテラシーを明示化する。LSは、その分野におけるリテラシーの体系が未整理である場合には、それを促し、古びている場合には、改訂を働きかける。また、対象がリテラシーを理解した上で、適切に用いて表現し、コミュニケーションを生み出しているかを吟味する。 教育はコミュニケーションとリテラシーの場である。そこではリテラシーがつねに意識され、重要さも認知されている。教育を通じてリテラシーが内在化されたインサイダーはそれを使いこなせるけれども、わかっているわけではない。意識して顕在化するとき、他者の認識との相互作用によって、新たな発想が見出される。 イデオロギーや主義主張もリテラシーに則って表現される。制作者はリテラシーを会得していなければならないが、受容者は、たいていの場合、それを意識していない。リテラシーにおいて、両者は非対称の関係にある。リテラシーに注目する探求は倫理性を問うことでもある。 ヒュ-リスティックやしろうと理論など思考のショートカットは根強い。一見もっともらしい恣意的な思いつきや思いこみに基づく当て推量や我田引水は、多くの場面で見られる。こうした自分にとらわれた短絡的な思考は社会的に非常に影響力があるが、相次いで生じる諸問題の根本的解決を阻害する。LSはこの事態打開に寄与できる。 |
4 LSの基本的作業行程 |
LSの基本的な作業行程は次の通りである。 (1)対象にかかわる範囲を特定する。 (2)その定義を明確化する。 (3)定義から導き出されるリテラシーを明らかにする。 (4)その対象とリテラシーの関係を検証する。 対象はその議論上のトピックを指す。分野の場合もあれば、作品内の登場人物の場合もある。この一連の手続きによって、リテラシーがあれば、いかなる対象にもLSは適用できる。 これは最もベーシックな流れであって、状況に応じてさまざまに拡張することは可能である。または、段階をいくつか省いて、考察を集中する場合もありうる。 |
5 LSにおける定義の機能 |
定義は内部にとっては重要ではないが、外部には理解の前提である。定義はその本質の要約であり、他者が理解・習得する際の鍵である。リテラシーに通じる定義を「開かれた定義」、そうでないものを「閉じられた定義」と呼び、LSでは前者のみを定義と見なす。普段どんなに非合理的・感情的・衝動的な言動をする人であっても、他者になると論理主義者である。LSはその定義に基づいてリテラシーの理論体系を構築し、精密化する。 |
6 定義のための範囲の特定 |
人間の営みを次のような階層秩序に体系化すると、定義が容易になる。 (1)領域(Area Order):芸術(Art)、学問(Science)、経済活動(Business)、遊び(Play)など (2)区分(Division Order):文学、美術、映画など (3)分野(Discipline Order):散文フィクション、詩、演説など (4)ジャンル(Genre Order):近代小説、告白、ビカレスクなど (5)作品(Work Order):『失われた時を求めて』、『ユリシーズ』、『変身』など この階層秩序を用いて考察対象に必要な範囲を特定できる。下位概念は上位概念の定義を具体的なイメージとして伝える際に有効である。 これらの分類は見通しをよくするためのものであり、便宜的である。名称にも拘る必要はない。.純粋系は、むしろ、稀で、ほとんどは相互依存・相互浸透している。この分類は排他的・一方向的ではなく、複合的・多方向的に見るべきである。 なお、上記の各階層にはおのおのを「大秩序(Major Order)」として、「小秩序(Minor Order)」を設ける場合もある。領域を例にとると、「小領域(Minor Area Order)」には人文科学や社会科学、自然科学などが含まれる。このカテゴリーは議論の必要に迫られた場合に設置される。分類は手段であって、目的ではない。 |
7 複数の定義を用いる場合 |
テーマ研究は学際的にならざるを得ず、定義が複数に亘る。しかし、それらはその区分・分野の固有の見方を示している。LSは複数のアプローチによる定義の意義を受けとめ、それらをできる限り収集し、有機的に結びつけ、新たな考察につなげる。 |
1 リテラシー・スタディーズの定義 |
批評とは意味を解釈したり、機能を分析したりするなどして、対象を意識化して「評し(Appreciate)」、「体系付け(Systematize)」、他者に「共感(Empathy)」させる行為である。「リテラシー・スタディーズLiteracy Studies」」は「リテラシー(Literacy)」に注目して解剖学的に考察する批評である。 |
8 批評の批評 |
一見もっともらしくても、対象に関連するリテラシーを理解していないため、実際には見当外れである作品も少なくない。また、扱っている対象自身がそもそもリテラシーを認識できていないのに、それを見逃し、買い被って論考を進めている作品もしばしば見受けられる。LSはこういった批評の妥当性を論拠を示して批判する。 |
9 アルゴリズムの活用 |
すでに有効と認められた定義やリテラシーのアイデアをアルゴリズムとして援用することもできる。エーリヒ・アウエルバッハの『ミメーシス』やノースロップ・フライの『批評の解剖』は文学研究におけるアルゴリズム集である。むしろ、アカデミズム等の成果も活用し、定義やリテラシーのアルゴリズム集の作成も積極的に行う。 |
10 LSの実践例 |
LSには、そう名乗っていないけれども、優れた先駆例がある。夏目房之介の『マンガはなぜ面白いのか』や小栗康平の『映画を見る眼』が相当する。両者ともマンガや映画に特有のリテラシーを明らかにして、魅力の理由を示し、それを踏まえて理論を体系化している。LSに関する具体的なイメージがつかない場合には、この二作品を参考にするとよい。また、簡単な実践例としては佐藤清文による「反復と比喩─詩とリテラシー・スタディーズ」も挙げられる。LSはその分野ならではの面白さを解き明かすことを意図している。 |
11 リテラシー・スタディーズ・プラットフォームの改訂 |
リテラシー・スタディーズ・プラットフォーム(以下LSPと略)は入門者にとってのLS入門であり、定義や作業手続きなどを規定するガイドラインと具体的なモデル・ケースを示した実践解説によって構成される。つねに改訂の余地を残し、この更新は協同作業であり、原則的に、誰もが参加できる。ただし、それは簡便化・精密化・拡張化のいずれかの目的に適っていなければならない。 新たな筆者による根本的改訂をメジャー・チェンジ、既存のヴァージョンの加筆・補正をマイナー・チェンジとする。前者は自小数点以上、後者は小数点以下の変更によって表記する。改変の際には、その理由を挙げた上で、行わなければならない。それには、「コメント・フォー・ファシリテーション(Comment for Facilitation: CFF)」にその旨を記す必要がある。なお、このVer0.9シリーズはLSPのベータ版である。 |